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【4】 |
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「……ッ!」
思考のループから脱け出し、我に返る。気付けば状況は変わっていた。
敵の絶叫が止んでいる。不気味なほど静かだ。ついに息絶えたのか。
――違う。
「これは……!」
裂けた。
膨張する肉塊にいくつもの裂け目が走り、八方に広がった。花開いた、と表現しても良い。毒々しい赤色と腐れた黄色に彩られた、地獄めいた大輪。
華の中心。白い泡が無数に湧き立っていた。『綿』だ。『綿』はなおも増殖を続け、今にも華から零れ落ちそうだった。
「種子か! 彼奴め……最期の力で、分身をばら撒く気だ」
少女は毒づいた。あれだけの数をばら撒かれては手の打ちようがない。地球はこの不浄の種族が百花繚乱する魔界と化すであろう。
叫びではない聲が響く。常人が聞けばたまらず発狂するだろう異常な音波。低く、高く、魂にまで届く唄。勝利の凱歌のつもりか。
――させるものか。
「聞こえるか、我が主。彼奴が完全に開花する前に止めを刺す」
その言葉はもう一つの操縦席に向けられたものだ。少女の主――魔導書『アル・アジフ』と契約した魔術師、アイオーンのもう一人の操縦者である。
アル・アジフは返事を待たずに術式を走らせる。元より答えられる状況にないだろう。アイオーンを動かすたび、魔術のフィードバックが全身を引き裂くような苦痛になって術者を襲う。機体の制御に精一杯のはずだ。
しかしそれでも、この敵は絶対に滅ぼさなければならない。
少女の口から自然と呪文が零れる。地球に存在する如何なる言語にも属さない、異界の祝詞。異形の唄が二つ、決して相容れない合唱となって天に地に響き渡る。
「神銃形態」
アイオーンの前方、二重螺旋を描く光の柱が顕現した。光の柱に手を伸ばす。弾ける光。アイオーンの全長に匹敵する柱が実体を結んだ。
アイオーンの手に握られているのは一本の杖。『魔法使いの杖』だ。金属的な輝きを帯びるその杖の下方には、引鉄があった。
杖の頭部を敵に向け、両手で構える。折れた右手の指を無理やり杖に絡める。左手の指は引鉄に。
「塵も残さず灼き尽くしてくれよう」
杖の頭部が『展開』。ユークリッド幾何学と質量保存則に背き、変形、巨大化。杖が新たな姿を得る。
対霊狙撃砲。
砲身を幾重にも取り囲む魔砲陣。視認できない速度で高速回転する。一回転ごとに数千、数万の魔術文字を『意味』を持つ言語に変換する、龍脳車である。
砲口の奥、兇悪な光が生まれた。解き放たれる瞬間を今か今かと待ちわびている。
敵の唄が甲高くなる。今まさに悪夢の種子が撒かれようとしていた。
だがそれよりも早く、アイオーンが引鉄を引く。
「クトゥグア」
それが銃口から放たれるものの正体だった。
世界が白く染まる。一切の音が失われる。
破壊が総てを呑み込んだ。
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