【6】
そして少女はまた独りとなる。
墓に刻む名前は無い。墓標は主が持っていたただ一本の
剣
(
サーベル
)
。フラスコに残ったたった一滴の酒を主の眠る土に湿らせ、少女は主に背を向けて去る。
二度と振り向かない。振り向く権利はない。この身は契約者の屍を積み上げ、進む外道。必要以上に静かな最期を騒がせることはない。
さあ、征こう。次なる闘争へ。次の邪悪が現れる地へ。
黎明の空に手を伸ばす。少女が見つめるのは空ではない。その瞳の先、伸ばした手の先にはあの気高い剣。遠い理想。
少女は夢想する。いつかあの剣に届く日を、届かぬ理想に届く日を。
もしも、もしもだ。この手があの剣を掴むその時が来るのだとしたら、そんなことが赦されるのだとしたら。
この孤独な悠久にも、終わりが来るのだろうかと。
本来あるはずの無い理想。ゆえにこれは、在るはずの無い希望。
陽が昇る。
硝子
(
ガラス
)
の大地な朝が来る。
朝陽に向かって、少女は歩き出す。
その清浄な輝きに照らされて、少女の瞳の下、何かが綺羅綺羅と煌めいた。
そして、時は流れ――
「こ、こ、この……! 何をぼけっとしておった!? うつけうつけうつけ! 大うつけ!」
少女は――少女と『彼』は、魔を断つ剣を執る。
【『機神咆吼デモンベイン』につづく】