|
|
|
|
【2】 |
|
|
|
鋼鉄の破壊者。機械仕掛けの神――鬼械神。
鬼械神とは力ある魔導書によって召喚される巨大ロボットの総称。最も深遠な魔術の結晶体である。
人智の及ばぬ技術である。人では届くことが出来ない威力である。鬼械神を召喚する魔導書は――その魔導書と契約した魔術師は、紛れもなく世界最強だ。
そんな規格外の鬼械神たちの中にあって、なお最強を誇る機体がある。
それがアイオーン。魔導書『アル・アジフ』によって召喚される闇色の機神。
誰が知ろう。アイオーンの内部、操縦席に座る可憐な少女。この凄惨な戦いの場に、まったく似つかわしくないこの少女こそ最高位の魔導書、あらゆる外道の知識が記された異形の書、アラブの狂詩人によって執筆された、今は失われたとされる『アル・アジフ』そのものであることを。
「――違う」
少女が呟いた。少女以外の何ものでもない声だった。それでもその心は、少女らしい感情からは最も遠い。
「これでは足りない」
忌々しげな声。その視線の先はモニタの向こうに映る、アイオーンの砕けた拳。敵に『必滅』の術式を叩き込んだ拳。
だが敵はまだ生きている。崩壊寸前とはいえ、まだ形を残している。
それでは駄目だ。『必滅』に程遠い。彼女が思い描く『必滅』はもっと徹底的なものだ。無慈悲なものだ。苦しむ間も与えぬほど完璧な『昇滅』だ。
徹底的で無慈悲で完璧なゆえに、慈悲深い滅び。彼女はそんな術を識っている。
――識っている?
何故。この身に記されていない魔術をなぜ識っているのか。千年を超える戦いの中ですら見なかったものをなぜ識っているのか。
……解からない。解からないが現に真似事とはいえ術は発動し、不完全とはいえ敵に致命的な一撃を与えた。
識らないはずの知識。だがここまでだ。これ以上の術を完成させるには何かが決定的に足りない。それは何なのか――。
少女の心の中には一本の剣がある。
剣に意志は無く、しかしそれを振るう者の気高い魂を受けて、美しく輝く剣。穢れの無い刀身。無垢なる刃だ。
少女はそのイメージを欲する。そのイメージに少しでも近づくために術を紡ぐ。それでも届かない。それは遠すぎる理想だ。その果てない距離を想うたび、少女の心は正体の知れぬ何かに苛まれる。
……何を哀しむのだ。何に震えているのだ。
我が心は鋼鉄。戦いのための魂。求めるべき理想もこの身を襲う恐怖も無い。
――では、なぜ戦う?
理想も無く恐怖も無く、つまり理由の無い戦い。あるのはただ戦いという強迫観念。
何が自分を突き動かすのか。何が自分を戦いに駆り立てるのか。
理由の無い命。識るはずの無い知識。在るはずの無い理想。感じるはずの無い恐怖。果ての無い矛盾――。
そうして少女は戦いの最中、思考の迷宮に迷い込む。
|
|
|
|
|
|